目まぐるしく変化する今日のビジネスの世界では、成功した取引をするのは容易ではありません。一つ一つの取引に掛けられる時間も短くなり、取引は以前にも増して迅速なスピードで行われています。そのような極度のプレッシャー下で複雑な契約を結ぶことを、CEOやその他の幹部は余儀なくされています。1回のミスが何万もの損失につながるような、そんな大変リスクの大きな交渉をせざるを得ない状況です。そういったプレッシャーは、交渉をする人を一定の警戒状態に置いてしまいます。そしてストレスで壊れやすくなってしまう人もしばしばです。この記事を読んで、ストレスが掛かったときでもうまく交渉を処理する方法を学んでください。
プレッシャーの高いビジネス交渉には高度なトレーニングが必要
利害の多いビジネス交渉と、軍隊の司令官によるプレッシャーの掛かった交渉や意思決定の交渉にはいくつかの類似点があります。ビジネスマンの交渉と同じように、アメリカの軍事関係者も他のリーダーとの関係をうまく促進するのと同時に、機密情報を収集したり、取引したりしなければなりません。
ビジネスマンと米軍のリーダーの問題点や目的は全く異なりますが、両者共に、迅速に決定しなけばならないというプレッシャーの下に置かれています。この記事では、高度な交渉トレーニングに関するビジネスケーススタディや軍事取引の実例を紹介します。そこから、ストレスの多いビジネス会議で取引をうまく成功させる方法についてのアドバイスを見て行きます。
まず始めに、第三者と直接交渉する経験を得ることに勝るものはありません。このため、交渉トレーニングのコースでは、ロールプレイ演習に多くの時間を割く必要のあることを念頭に入れて置いてください。交渉のタイプ、製品やサービスのタイプはここでは問題ではありません。重要なことは、ストレスやプレッシャーの下であなたがどのように反応するかを学習することです。
誰もがそれぞれ独自のスタイルを持っています。プレッシャーが嫌なので他の人の言いなりになったり、負け交渉をするのではなく、自分のスタイルに合わせて選択をすることが最善です。
大きなプレッシャーのかかる交渉 - してはいけないこと
大きなプレッシャーのかかる状況では、非常にうまくいくか、もしくは、非常に悪い状況になる傾向があります。多くのリスクがある時、交渉に立つ両チームはしばしば、長くなっても交渉を続け、後日に伸ばさないようにしようとします。しかし、緊急に解決策が必要な場合には、両チームが不満を持って交渉を終えるか、または終えた取引がネガティブな影響を引き起こすこともしばしばです。
ぜひ覚えておいていただきたいのは、あなたが締結した取引はあなたのビジネスに長期的な影響を与えるうるということです。特に買収はあなたを後から悩ます可能性があります。重要な例として、2008年の金融危機の際に起きたことを挙げてみます。多くの企業が政府の救済措置と引き換えに事業を解散しましたが、会社の資産評価はストレス下での交渉の犠牲となりました。
圧力の下で交渉がうまく行かなかった例は、米国財務省によるクライスラー救済です。クライスラーは、組合、財務省、カナダ政府、およびフィアットの間で所有権を分割することと引き換えに、120億ドルを受け取りました。フィアットはまた、組合所有権の一部と、米国、及びカナダ政府の所有権を買い取るオプションを交渉しました。
最終的に、このイタリアの自動車メーカーは、自らのビジネスを強化するためにクライスラーの買収を求めました。しかし、フィアットが組合を買収する際、クライスラーの資産評価が問題となりました。組合に支払われた45億9千万ドルがクライスラーの価値に見合うかどうか疑問視され、フィアットとクライスラーは裁判を起こしました。
ここでの教訓は、ストレス下の状況は多大なお金の掛かる交渉を引き起こす可能性があるということです。フィアットが買収条件を交渉した際、将来のオプションを左右する評価を正しく洞察する先見の明がなかったのです。同様に、数十億ドルを手に入れられる機会にいながら組合も交渉にうまく行かなかったと言えましょう。そして、フィアットと組合の幹部に多大なプレッシャーが掛かってしまいました。
人はストレスを受けていると、創造性を失ってしまう傾向にあります。これはかなりの不利益につながります。最高のアイデアは、脳の創造性の部分にアクセスできる時に生まれるからです。ストレスを感じた結果、体が攻撃・逃避反応を示し、創造性を失っている状態であるのに気づくための最良のルートの1つは、マインドフルになる、注意を払うということです。
マインドフルネスは何千年もの間東洋で実践されてきました。現在、マインドフルネスは交渉のテーブルにおいても世界的にますます一般的になりつつあります。あなたがチームの一員である場合には、チームのお互いを観察することに気をつけます。自分一人で交渉している場合には、筋肉の緊張度合いに注意して、ストレスを受けているかどうかを早めに把握します。
交渉をしている部屋にいる他の人を注意深く見たり聞いたりする必要があります。意見の衝突が予想される明らかな兆候は、特に “しかし” という単語が交わされることよって見受けられます。
時間のプレッシャーを活用して優位に立つ
ストレスの多い状況や即断しなければいけない状況が交渉に強い影響を与えることを見てきましたが、次に、時間のプレッシャーについてお話しします。時間的プレッシャーとは、限られた時間をあなたの有利になるように使うということを意味します。取引の交渉相手の要求 (ニーズ) が分かって入れば、あなた自身のアジェンダに基づいて行動できる機会が生じるかもしれません。時間を有効活用するというのは、大きなプレッシャーの掛かる状況で優位性を獲得するためには有効な戦略です。
以前の例で説明すると、クライスラーとフィアットは取引を迅速に行うという強いプレッシャー下に置かれていました。クライスラーは救済を必要としており、フィアットとしては取引が可能であるうちに最善の買収条件を確保したかったのです。
理想的な交渉では、フィアットは財務省に時間のプレシャーを掛け、45億9千万ドルがクライスラーの価値に不利に作用するように取引を持ちかけようとします (フィアットの買収価格を引き下げます)。一方、財務省はアメリカ人の仕事の場を救済する必要があったため、時間のプレッシャーは有効に働きました。フィアットは、クライスラーの差し迫った崩壊を利用して、フィアットにとって有利な買収条項で書面に押し込むことができたでしょう。
ところが、現実にはフィアットは会談をコントロールする機会を逃し、それどころか、パニックに陥り、重要な利益 (買取オプション) をテーブルに残したまま契約にサインしてしまいました。
個人でも複数でも交渉している相手との取引の遅れによる影響を評価するには、以下のような質問を書き出してみるようにトレーニングしてみましょう:
- “この取引に同意する期日はありますか?”
- “その期日までに同意しない場合にはどうなりますか?”
あなたが会社を代表している場合には、同僚とよく話し合いましょう。取引を締結するまでできるだけ多くの時間を取り、後で時間で悩まないようにしましょう。また、同僚が相手サイドと話をしないように確認しましょう。時間を取ることやその他の要因が影響して、交渉上でのあなたの地位を損なってしまう恐れがあるからです。
高プレッシャー下での交渉 - 何がうまく行くのか
プレッシャーの高い交渉がうまく行くと、通常その見返りは非常に大きいものになります。実際のところ、あなたはお金のためだけに自分自身をストレス下に置いているわけではありません。交渉に関係する他のビジネスにプレッシャーを掛けることをお話してきましたが、時には圧力よりも、協力がうまく行くことがあります。
ハーバード・ビジネス・レビューは高プレッシャー下の軍事交渉について研究し、交渉の良い例と悪い例の両方を明らかにしました。良い例のうち、特に1つの例が際立っています。
砲兵隊の司令官アンドリュー・ウィリアムズ大尉(Captain Andrew Williams)は、IED (即席爆発装置)が道端に配置されたという報告を受けました。武力行使に出る代わりに、ウィリアムズ大尉は彼の部隊に爆発物を設置した男たちを監視するよう指示しました。
そして、ウィリアムズはその特定された男たちが住んでいた村に行き、村の長老たちにIEDの設置を止めるよう頼みました。村人たちは見返りにお金を要求しましたが(時間的プレッシャー)、ウィリアムズはパニックに陥ることはありませんでした。代わりに彼は冷静に長老たちに “なぜ?“と尋ねました。
そしてウィリアムズは村人たちの動機を調べ始めました。その結果、村人たちは貧しく、情報をリークしているようには見られたくないということが分かりました。そこでウィリアムズは、村人たちにカウンターオファーを申し出ました。それは、米軍は男たちの身元調査を続け、村人は男たちを米軍の前哨基地へ連れてくるというものでした。
長老たちはそのオファーに納得したように見えましたが、一方で、設置に関わる男たちは家族を養うお金のためにIEDを設置しているだけではないか、という心配がありました。そこで、ウィリアムズは彼らの心配を再び考慮し、他のプランを提案しました。男たちの名前はデータベースに登録するが、彼らを村に解放してあげようというものでした。このアプローチであれば、長老たちは状況をうまくさばけたという村の中での信頼を得られ、さらに、米軍の助けにもなるのです。長老たちはそれに同意しました。
それから程なく、ウィリアムズは武器の隠し場所などに関する多くの報告を受けるようになりました。また、地元の人々もIEDの配置場所についてウィリアムズに注意を報告するようになりました。自らの命をかけて、ウィリアムズは強硬なスタンスを取らずとも、自分の立場をうまく交渉することに成功したのです。
あなたのビジネス交渉でも、可能な限りサプライヤーや顧客と直接会うようにトレーニングしてください。顔を直接合わせて会うことは、信用と信頼を築きます。これは協力の道に議論を進めるために不可欠です。
共通の目的を見つけて、早期の勝利を目指しましょう。早期の合意は勢いや自信となります。両者が合意しない最も困難な領域に、早すぎる段階で取り組むことは高いリスクが伴います。
可能なら協力する
プレッシャーの高い交渉が失敗する恐れが強いからといって、高プレッシャーの交渉において他のチームと協力できないというわけではありません。他のチームもあなたと同じくらい、あるいはあなた以上に交渉に負ける可能性があるのです。
アンドリュー・ウィリアムズ大尉は上の事例において、高プレッシャーの中での交渉を成功させ、高度な協力戦略を完璧に示しました。長老たちの要求に屈したり、自分たちの力を行使しようとする代わりに、ウィリアムズは相手を理解するというアプローチを取りました。
ウィリアムズは村人たちと協力しようと試み、米軍、及び村の長老たち、その両者に利益をもたらすことのできる合意に達したのです。自らの命をかけてまでも、ウィリアムズは各関係グループの最大の利益を念頭に置いて交渉していたのです。
最終的に、協力はウィリアムズの当初の交渉をはるかに上回る成果を上げました。彼は、仮に脅迫的なアプローチを取った場合よりも多くの情報を得ることができたと考えられます。
私たちはこれをビジネスの世界に置き換えることができます。交渉トレーニングでは、交渉の解決策について協力する努力をすることで、将来のビジネスをさらに獲得できることを教えてくれます。時には、もし可能であれば、友好的であることが有益です。それが唯一のオプションである場合 (もしくは、どうしても協力したくない場合) を除き、ストレスの多い交渉に自らを追いやらないでください。
協力を得るための最良の方法は、それを獲得できるよう努力することです。まずは相手側に好意を示すことから始めます。好意を示すことで、あなたが交渉の相手側の利益にも注目していることを示すことができます。また、あなたがあなた自身のニーズを満たすことだけに興味があるわけではないことを示すことにもなります。好意は人間の普遍的な返礼という原理を呼び覚まします。これは協力関係には不可欠の要素です。
あなたが他の人のニーズに目を向けるとき、相手は好意をお返ししなければと感じ、あなたの興味に目を向けるようになります。そのため、まずはあなたが最初に他の人の利益に投資するようにしてください。
終わりに
プレッシャー下で交渉をうまく成立させられるかどうかは、置かれている状況によって異なります。採用できる戦略には、単純なものから高度なものまで様々なものがありますが、最も有効なものは時間のプレッシャーと協力です。
状況が厳しくなったとき、プレッシャーに抗って戦ったり、プレッシャーにすぐ反応してしまわないようにしましょう。多くのビジネス関係では、協力をすることで長期的にはより良い結果を得ることができるのです。